雨の音 ☔️ 🌂

雨の音

心の贅沢つてなんだろうかー。
ラジオ番組の打ち合わせの時何度か出た話ですが、
最近になって、それは自分の受け取り方で、
自分はそれをどう感じるかで決まってくるものではないか、
と考えるようになりました。
日本人にも、日本人だからこそわかるような贅沢、
というのもあると思います。

自分が東京にいる時によく食べに行く、
小さなイタリアンレストランがあります。

若いご夫婦とスタッフが、
三人だけでやっていらっしゃる小さな店なんですが、
ある時、ご主人にこんなお話をうかがったことがあります。

念願のお店を開店した時のこと。
彼が私淑している方が、お祝いにと言って、
奥さんには蛇の目、ご主人には唐傘を誂えて贈ってくれたらしいんです。
江戸時代の藩士たちが生活を少しでも楽にするために傘を張るという話は、
よく時代劇でもありますが、その傘を貼る伝統が現在まで続いている地方が九州にあるんだそうです。
八十歳を超える方が作った傘なんですが、
プレゼントした方が、
「この唐傘とか蛇の目をさすと、雨が降った時にパラパラ雨が当たる。
その音がとっても待ち遠しい」という話をされたという。
僕はその話を聞いて、凄い人だなと思いました。

雨が降って嫌だな、と普通の人は思うんでしょうけれども、
雨という自然の恵を愉しむというんでしょうか、
心にゆとりがあるからこそ、傘を単なる雨をしのぐ道具ではなくて、
雨を愉しむ道具に変えてしまう。
僕の友人のレストランのご主人に傘を贈られたその方の心の有り様が、
とてもすばらしいと思いました。

先月、撮影でパリに行ったんですけど、ちょうどいちばん混む時期で、
日本の若い人が大勢、ブランド店に押しかけてました。
日本人が押しかけていっていくら金を遣っても、
店の人からは雑に扱われているー。
ちょつと哀しい現実ですね。
心のレンズの絞りやアングルをほんの少し変えてみると、
鬱陶しい雨の音も楽しむことができるという、
そういう生き方をしてきた我々の先祖の文化があるんですね。
傘の話を聞いて、強くそう思いました。
自分もお願いして、蛇の目と唐傘とを作っていただきましたが、
まだ一度もさしていません。
いつか雨の日にそれをさして、
そこらへんを歩いてみたいなと思っております。

高倉健 「旅の途中で」より

☔️ 🌂 ☔️ 🌂 ☔️ 🌂 ☔️ 🌂
by o-yuyu | 2014-12-02 22:49 |
<< メット(7月) 高倉健さんの本 >>